「スイスについて知っていることは?」と問われれば、およそ9割以上の人が、アルプス、ハイジ、時計、チョコレート、チーズなどなどとと答えるでしょう。もちろん、そのどれもがスイスの一面を言い当てているものの、スイスの全体像は、もっと多様で複合的なものです。

ここでは、スイスについて、ごく基本的なことを紹介していきます。

(1)国名とその成り立ち
 スイスの国名は、Confederatio Helvetica 「ヘルヴェチア連邦」と言います。スイス・フラン硬貨に、シンボルとしての「ヘルヴェチア」像が描かれています。
 このヘルヴェチアの名前は、紀元前一世紀にローマ人が、今日のスイスの地に入植する以前の先住部族、ケルト系の一部族ヘルヴェチア部族に由来します。このヘルヴェチア部族はローマ人の入植に伴い、融和されていきますが、後に1848年スイスの新連邦憲法が制定される機会に、このヘルヴェチアの名称が採用されたのです。

(2)国土・人口
 スイスの国土面積は41,300 ・です。これは、ほぼ日本の九州の面積に匹敵します。
 人口は、712万3500人(1998年末現在)で、その内の19.4 % が外国人です。人口密度は173 人 / ・。人口のおよそ5分の1が、チューリッヒ、バーゼル、ジュネーヴ、ベルン、そしてローザンヌに集中しています。

(3)政治のしくみ
 今日のスイスは、26のカントン(準カントンを含む)で構成されている連邦国家です。外交と軍事を除き、各カントンは大幅な権限を有しています。さながら、26 の小国家が互いの共通の利益のために連合している、といっても過言でないでしょう。 

(A) 立法
 スイスの立法府は、二院制をとり、国民議会(下院にあたる)と全州議会(上院にあたる)で構成されています。国民議会は200議席、全州議会は46議席で、両議会議員は4年に一回改選されます。
 このスイスの立法システムの中で、最も特徴的なものは、直接民主主義の制度です。
 両院で議決されたすべての法案は、5万人以上の有権者の要求があった場合、国民投票に付されます。憲法改正、条約批准や国家の安全保障に関わる法案に関しては、すべて国民投票に付されます。
 そして、個人投票と州の過半数を獲得しなければ法律として成立しません。

 さらに、国民には、発議(イニシアティヴ)と呼ばれる直接請求権が保障されています。10万人の有権者の署名が集まれば、憲法条文の改正、条文の追加を正式に要求でき、国民投票に付されます。

(B) 行政
 連邦の行政上の最高権力は、連邦委員会と呼ばれ、7名の委員で構成されています。この7名が1年任期の交替で、この委員会の議長および大統領を兼任します。

(4)スイスの誕生
 13世紀、スイスはほぼ全域神聖ローマ帝国の支配下に置かれていました。この時期、ようやく南北ヨーロッパを結ぶ交通の要所として、サン・ゴタール峠が本格的に開通し、それまでグラウビュンデン地方から大回りしてイタリア方面へ抜ける街道を利用しなければならなかったことを考えると、南北ヨーロッパの交通史上の革命的な出来事となりました。
 この四森林州湖周辺のウリ、シュヴィッツ、ウンテルヴァルテンの住民は、神聖ローマ帝国の支配下に組み込まれていたものの、険しい山間の地であり、ハプスブルグ家が直接に支配の手を伸ばしてくるまでは、相対的に「自由」を享受していました。そこへ、ハプスブルグ家出身のロドルフ1世が神聖ローマ皇帝に就き、今までとは事情が変わりました。今まで享受してきた「自由」、サン・ゴタールの利権を巡って、中央スイスの住民たちは、ハプスブルグ家の強権と対峙することを余儀なくされたのです。
 1291年、皇帝ロドルフ1世が死ぬと、事態は一層深刻になり、とうとう同じ年、ウリ、シュヴィッツ、ウンテルヴァルテンの3つの地方の代表が、名高いリュトゥリの丘に集まり、ハプスブルグの支配に抗して闘うことを誓約した同盟を結びます。これが、今日のスイス連邦の始まりです。
 その後、1308年に3州は、誓約を再確認し、同盟の絆を強め、1315年には、初めてハプスブルグ家側との本格的な戦い(いくさ)を繰り広げ、重要な勝利を収めることになります。これが、スイス誓約同盟の本格的な始まりです。

(5)言語と宗教

(A) 言語
 スイスでは、4ヶ国語が国語として認められています。ドイツ語、フランス語、イタリア語、そしてレト・ロマニッシュ語です。(最後のレト・ロマニッシュ語は地方の国語として、1938年に認められました。)
 それぞれの言語の使用人口率は、ドイツ語64%、フランス語19%、イタリア語8%、レト・ロマニシュ語が1%です。そして、上記以外の言語を母国語としている人口がおよそ8%あります。
 これら4つの言語の内、少なくとも2つの国語を小学校から習わなければなりません。しかし、最近の傾向は「英語」の国際語化に伴い、小学校で英語を導入しようとする動きが活発になっています。
 スイスは多言語国家として知られていますが、一部の地域を除いて、日常的に2〜3言語をしているわけではありません。小学校入学時にすでにバイリンガルの子供の比率は6% と言われます。レト・ロマーニッシュ語が使用されている地方では、ほぼ全住民がバイリンガル。フランス語圏で10.4%、イタリア語圏で9.5%です。それに対しドイツ語圏の小学校入学時でのバイリンガル率4.9% といわれます。(1994 年調べ)

(B) 宗教
 スイス人の圧倒的多数はキリスト教徒です。宗教改革の時代にジュネーヴを中心に活躍したカルヴァン、チューリッヒを中心に活躍したツヴィングリなどの影響で、プロテスタント人口比率も高く、今日では、カトリック47.6%、プロテスタント44.33%です。
 かつての宗教戦争時代を経た、宗教対立は今日ではなく、両派は共存しています。
 その他に、ユダヤ教、イスラム教の影響も決して少なくありません。

(6)産業
 第1次産業 4.5%、第2次産業 27.8%、第3次産業 67.7%
 労働人口に占めるスイス人以外の労働者数はおよそ100万人で、これは、活動人口のおよそ25%に当たります。